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キャッチコピーのあれこれ

年の瀬ですね。
一気に寒さが進み、街はイルミネーションでデコラティブに彩られています。
フライドチキン店の前を通ると「食べたくなるなる」というフレーズを思い出し、買い物に出かけ物欲を刺激されると「モノより思い出」と唱え物欲をかき消し、くしゃみを3回する人がいれば「ルル3錠」とつぶやく…。

そう、今回のテーマは「年の瀬の光景」ではなく「キャッチコピー」です。
広告制作に携わる仕事をしていると、キャッチコピーは避けて通れない項目のひとつです。
今回はキャッチコピーにまつわるあれこれを書き連ねてまいります。

(1)そもそも、キャッチコピーとは

普段当たり前のようにキャッチコピーという言葉を使っていますが、あらためて辞書で「キャッチコピー」と引くと、「人の注意を引く宣伝文句」とあります。
英語のようですが、

「catch:捕まえる」+「copy:広告文案」=「捕まえるための広告文」

という意味の和製英語です。
捕まえられるのは広告の受け手、つまり我々消費者にあたります。ちなみに英語でキャッチコピーに当たるモノは単に「コピー」または「セールスメッセージ」といいます。(小学館「デジタル大辞泉」より)

一方、キャッチコピーに似た言葉に、「キャッチフレーズ」があります。
こちらも辞書で調べると「感覚に訴えて強い印象を与えるよう考案された、短い宣伝文句。うたい文句」とあります。キャッチコピーとの違いが分かりづらいですね。

これまでの私の薄い職務経験と今回調べた内容を踏まえると、ざっくりと、
「キャッチコピー=広告宣伝のみで使うもの」
「キャッチフレーズ=広告宣伝以外でも使うもの」

という違いがあると言えます。

例を挙げると、前段で少し触れた
「食べたくなるなるケンタッキー」(ケンタッキー・フライド・チキン)
「モノより思い出」(日産セレナ)
「くしゃみ3回ルル3錠」(第一三共ヘルスケア株式会社)

などはキャッチコピーです。

キャッチコピーの役割は、短い言葉で強く印象付けることです。語呂が良く、覚えやすく、ストンと腹に落ちるようなキーワードを生み出せると、広告の訴求力は何倍にも上がります。

一方、キャッチフレーズは宣伝以外でも使います。

例えば就職試験、または営業職が顧客と初めて面談する時など、相手に自分を印象付けたい時に自分のキャッチフレーズを考えて伝えることがありますよね。
「私は〇〇社のモドリッチ(※)と呼ばれるくらいタフです」といった具合に。

※モドリッチ…ルカ・モドリッチというクロアチア出身のサッカー選手。FIFAワールドカップカタール大会ではクロアチア代表の主将を務め、37歳にして7試合すべて先発出場、とてつもない運動量でクロアチアの3位に貢献した。

ちなみに70年~80年代はアイドルがデビューする時にキャッチフレーズを作るのが定番でした。レコード会社が新人を強く印象づけることを狙って作ったものでありますが、今見るとちょっと理解しがたいものなどバリエーションがたくさんあります。

例えば、
・美輪明宏「神武以来の美少年」(→本当にそうなのか?)

・山口百恵「大きなソニー、大きな新人」(→確かにソニーは大きいけれど)

・後藤久美子「国民的美少女」(→そのまんま)

・男闘呼組「ジャニーズ事務所のおちこぼれ」(→そんなことはない)

・菊池桃子「REAL1000%」(→よくわからない)

キャッチフレーズはブランディングの役割を果たすもの。影響力や後世に残ることも踏まえて考案したいですね。

(2)日本のキャッチコピーの歴史

日本で初めてキャッチコピーを書いたのは、江戸時代の儒教者・平賀源内と言われています。
平賀源内と言えば、江戸時代中期にあらゆる分野に才能を発揮した博物学者・作家・画家・発明家。テレビ番組で江戸時に関するクイズが出題された場合、「平賀源内」と答えていたら、何回かに1回は正解しそうなくらい高頻度で名前を聞く人です。
 

それもそのはず、平賀源内は現代まで300年以上も使われている日本で一番古いキャッチコピー「土用の丑の日」を考えた人と言われています。
そもそもウナギの旬は夏ではなく冬なのだそうで、旬の時期でない夏にウナギを売りたいと考えた鰻屋の知人に頼まれて平賀源内が考えたのだそう。

現代でも「土用の丑の日なのでうなぎ食べなきゃ」という会話がなされていることを考えると、平賀源内のすごさがしみじみ分かります。

(3)日本ならでは!のキャッチコピー

名作と言われるキャッチコピーはたくさんありますが、日本のキャッチコピーは季節感のある情緒に満ちたものが数多く存在します。聞いただけで暑さや寒さを感じ、その季節の情景が思い浮かべるものは、もはやキャッチコピーではなく、季語に近い存在ではないでしょうか。

例えば、
『ピッカピカの1年生』(小学館)
新しいランドセルを背負った子どもと桜が目に浮かびます。桜が咲いたら花見だな。〇〇の松花堂弁当がいいな…と、最終的に味覚まで刺激するコピーです。

『金鳥の夏 日本の夏』(大日本除虫菊)
蚊のブーンという不快な音と夏の暑さを思い出すコピー。蚊取り線香を使う習慣のあまりない私でも線香の香りを思い出すという、「パブロフの犬」的効果のある秀逸なコピーだと思います。

『お正月を写そう』(富士フィルム)
CMの印象も大きいでしょうが、あのメロディーとともに、鏡餅、羽子板、着物といった日本のお正月らしいものが思い浮かびます。
あ、そういやしめ飾り買わなきゃ…。

このように、キャッチコピーからは色んなものが見えてきます。
ただの宣伝文句と侮るなかれ。ぜひ皆様も作り手の狙いに思いをはせて味わってください。

さて、今年もぼちぼち終わりですね。
新年を迎える準備ができたら、「おせちもいいけどカレーもね…」ということで、皆さま良いお年を!