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アップサイクルって、何でしょう?

(1)アップサイクルについて

戦後、経済復興の過程においてモノの「大量生産」が始まったことで、私たちの生活は「大量消費」の社会へと変貌しました。結果として大量のごみ問題に直面することとなり、その処理方法を巡っては環境への負荷に直結しています。

こうした社会の在り方を国際的に見直す方法の一つが、アップサイクルという考え方です。
一体、アップサイクルとはどのような考え方で、リサイクルなどとは何が違うのでしょうか?

リサイクルとは、不要となったモノを燃焼、破砕などの工程を経て、素材に戻してから再利用することとされます。しかしアップサイクルは、製品の従来の形状や用途をできるだけ活かしつつ、そこに新たな付加価値をつけて継続的に活用していくという考え方で、ヨーロッパをはじめ少しずつ浸透しつつあります。
より価値の高いモノに生まれ変わらせる事で、持続可能な社会づくりに貢献しようという考えです。
(余談ですが、このアップサイクルの対比で「ダウンサイクル」という考えもあります。ダウンサイクルとは、例えば着なくなった服を雑巾などに転用することなどです)

(2)アップサイクルの先駆的取組み

アップサイクルについて、私たちの生活で身近に普及し始めているのが衣類関連です。

環境省によると、日本の小売市場で売られている衣料品の約98%が海外で製造されているという驚くべき報告があります。
衣類やバッグ、帽子や小物などの商品は、毎年季節ごとに流行が生み出されるため、それに基づいて予め製造されています。長期間にわたって販売される商品以外は、毎年の流行の度に結果的に多くが売れ残ります。また、商品を製品化する際には大量の余り布が出ることになり、これらも廃棄されるという問題を長年抱えています。一説では商品化する際に使用される布の量は、消費者が商品として廃棄する布の量の数十倍とも言われています。統計結果によると、可燃ごみに出される衣類の年間総量はなんと50万8千トン!  その内95%が焼却または埋立て廃棄されています。

また衣類の価格は下落傾向にあり、1990年と比較して2019年では約半分程度になっているとも。そのため衣類の使用期間が短くなり、さらに廃棄が増えるという負のスパイラルになっているのが現状です。

大量に廃棄される衣類製品が環境に与える負荷については、各国で様々な打開案が提唱されてきました。しかし現在でもなかなか解決には至っていません。
こうした中、2019年には某大手アパレルメーカーが売れ残った自社商品を大量に廃棄しているというニュースが報じられ、世間の関心を集めることになります。その結果、大手各社のみならずスタートアップ企業群においても商品の廃棄問題に真摯に向き合うこととなり、現在に至ります。

さて、日本でのアパレル業界のアップサイクルの事例を一つ紹介しましょう。

老若男女問わず人気のセレクトショップであるBEAMS(ビームス)は、アップサイクルの概念を活かして新たな商品作りを始めています。

このBEAMSでの新たなブランドは、倉庫に山積みされていた売れ残り在庫品を廃棄するのではなく、社内外のクリエイターやデザイナーが新たな付加価値を加えて「別の商品」として販売するというもの。クリエイターやデザイナーによって追加するアイデアや付加価値が異なるために、大量生産された商品が「一点もの」として生まれ変わります。また、クリエイターやデザイナーを好むファン層も異なるため、「前の商品」と「後の商品」とでは販売ターゲット層も変わってきます。
企業にしてみれば、当初とは異なるマーケットにもチャレンジできる機会が生まれているのです。

(出典)経済産業省「生産動態統計」・財務省「貿易統計」より

(3)今、注目されるアップサイクル

それではなぜ、アップサイクルという考えが広がってきているのでしょうか?

一つには、国連が2015年に定め、2030年に到達を目標としているSDGsの存在があります。このSDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、17の目標を掲げて持続可能な社会をめざす運動で、現在では世界各国で取り組まれています。

このSDGsの各目標を達成することはブランド価値を上げることにも繋がるため、企業をはじめ自治体なども積極的な活動を始めていることが背景にあると考えられます。

その他、アップサイクルによるメリットとしては、本来の製品の特性を生かしたうえで付加価値を付けていくため、リサイクルに比べると使用エネルギーが少なく、環境負荷を減らすことができること。
これは脱炭素やCo2削減などにも繋がります。

何よりも、モノの価値を見直して、その寿命を延ばす。今あるモノをどのように活かすのか、一人ひとりが考える時期が来ているのではないでしょうか。
これらは個人、企業だけではなく自治体や国、それぞれが協力して取り組んでいくことで達成へと近づくのでしょう。
この瞬間も、多くの自治体などではアップサイクルの土壌づくりが進んでいます。

高度経済成長期に生まれた大量生産、大量消費の現代。
一つひとつのモノの価値を見直して大切に扱う意識を育み、取り組んでいく。
その先に、新たな社会の仕組みが見えてくるかもしれません。

出典:かながわアップサイクルコンソーシアム

(4)消費者ができるアップサイクル

アップサイクルは日常生活でも取り入れることができます。
例えば、食品や飲料などに使われている瓶。使い終わった空き瓶を花瓶やボトルランプなどに生まれ変わらせ、インテリアに活用することができます。
また多くの人が毎日のように買うペットボトル飲料。その一部をカットして、土を入れてガーデニングの鉢にリメイクしたり、お洒落にコーティングしてペットフード用のボトルに作り変えたりすることもできます。

筆者の例としては、祖母と母から受け継がれてきた大切な着物。
最近では着る機会も減っていますが、やはり捨てるには惜しいもの。そこで思い切って鋏を入れて、普段着用のトップやカーディガンへと大変身。これも立派なアップサイクル。
箪笥のなかで眠っていた思い出の品が、次の活躍の機会を得ることになります。

日常生活で楽しみながら工夫することも、アップサイクルの一つかもしれません。
今日からあなたも、アップサイクルに取り組んでみませんか?